"３０年ほど前に創業し、パン造り一筋で歩んでいますが、１０数年前にある疑問を感じ始めました。
何のため、誰のためのパン造りか？根本的な問いかけでした。
創業当時は右も左も分からず、日々パンを如何に合理的に焼くことしか頭にありませんでした。
労働生産性は？原価率は？売れ行きは？数字の中でパンを焼いていました。
おかしな話です。本末転倒です。
わたしたちの一番大事にしなければならないお客様の顔が見えないのです。

思い切った方向転換をしたのが、１９９７年。北新地に天然酵母パンの専門店を構えました。
「成形」は全て手造り、｢焼成｣もひとつひとつのパンによって温度調節、「発酵時間」は１２時間以上、｢原材料｣もひとつひとつ吟味など、パン造りの工程をすべて見直しました。
やっとお客様の顔が見え始めたと思ったのですが、同時にパン造りに悪戦苦闘！
今までの経験つまり「合理的な考え方」が通用しないのです。北新地店では、１日３種類程度のパンしか並ばないこともありました。ひどいときには開店してもパンが焼き上がらないので休業せざるを得ないときもありました。

気持ちが揺れ動いたことは確かですが、パン生地と「格闘」するしかない、「合理性」は追求しないと覚悟を決めてから、徐々にパン造りがスムーズに運び出しました。不思議でした。今でもその感覚は心のなかに残っています。

「格闘」するとは、パン生地の発酵リズムと作り手が調和すること、
そして非合理性の工程の中なかで浮かび上がってきたものが、お客様が求めているものであり、
わたしたちの求めているものです。

「お腹の底からおいしいといわれるパン造り。わたしたちの使命です」
今後ともよろしくお願いします。